体験

2017.10.19

モアナはドキュメンタリーだった?西村教授の映画史講義

映像学科
2017年6月芸術学部オープンキャンパス(中野)にて取材

2017年度、6月の芸術学部のオープンキャンパスでは、映像学科の西村安弘教授による講義「モアナはドキュメンタリーだった」が行なわれました。

「モアナと伝説の海」は、日本では2017年3月に公開された、ウォルト・ディズニー・スタジオのアニメ映画です。

南太平洋を舞台にモアナという16歳のヒロインが半神半人の伝説の英雄と冒険をするファンタジー作品ですが、このモアナとドキュメンタリーにどのような関係があるのでしょうか。映画史の視点からは、現在の映画界に大きな影響を与えている2つの歴史が、このアニメの背後に見えてきます。

時代を反映するディズニーのヒロイン

そのひとつが、時代の価値観に合わせて変化してきたディズニーの表現の歴史です。1923年に創業したディズニーは、1937年公開の長編アニメ「白雪姫」以降、「シンデレラ」や「不思議の国のアリス」、「眠れる森の美女」などヨーロッパ起源の、いわゆる白人文化を描いた物語を多く制作していました。当時はアニメ映画に限らず、アメリカの映画界全体が白人至上主義的な価値観に支配されていました。アメリカ南部では、まだ黒人と白人でバスの座席が分けられていた時代です。

こうした差別をなくそうという動きが1950年代からアメリカ全土で始まり、1964年に人種差別を禁止する公民権法が制定。1963年にはシドニー・ポワティエが、黒人初のアカデミー主演男優賞を受賞しました。世論に配慮し、同時に黒人の観客もあてこんだ黒人主演の映画が多く作られ始めたのもこの頃です。

こうした動きの中、創業者ウォルト・ディズニーが亡くなり、ディズニーはしばらく低迷しますが、1989年「リトル・マーメイド」の大ヒットで復活をとげて以降、1992年の「アラジン」ではプリンセスに初めて白人以外の人種が選ばれ、ネイティブ・アメリカンがヒロインの「ポカホンタス」、古代中国の少女が主役の「ムーラン」など様々な人種に配慮した作品を立て続けに制作します。そして2017年の「モアナと伝説の海」では、南太平洋・ポリネシアの人々が主役となるのです。

描かれる人種以外にも、モアナを助ける主役級のキャラクターが全身をタトゥーに覆われていたり、2013年にヒットした「アナと雪の女王」では、王子様には頼らない現代的な女性の姿が描かれるなど、様々な価値観を尊重しながらアニメを制作していることが分かります。時代の要求に合わせて、ディズニーの表現は常に変化してきているのです。

もうひとつの「モアナ」

1926年、アメリカの映画監督ロバート・フラハティが、南太平洋サモア島の原住民の生活を撮影した記録映画を発表しました。フラハティはそれ以前にも、カナダ北東部に住む先住民族のイヌイットの生活を現地に長期間滞在して撮影した「極北の怪異」という記録映画を制作していましたが、サモアにも家族を連れて1年半以上滞在を続け、映画を完成させました。

そして、ジョン・グリアソンという映画監督がこの映画を批評する中で、「ドキュメンタリー」という言葉が初めて使われたといいます。これが、のちに史上初のドキュメンタリー映画と呼ばれることになる「モアナ」です。

映画ではモアナという名前の青年を中心に、サモアの人々の生活や結婚式、漁の様子などが記録されています。人々はみな伝統的な衣装をまとっていますが、実はこの当時、サモアでも西洋化が進んでおり、民族衣装を着ている人は少数派でした。また、成人式の通過儀礼で入れ墨を彫る場面が出てきますが、これも当時すでに廃れつつあった習慣だったといいます。つまり「モアナ」は、現在でいう「やらせ」だらけの映画だったのです。

ドキュメンタリー映画というと、どことなく「やらせ」はタブーのようなイメージがありますが、この言葉を生み出したグリアソン自身は「現実の創造的処理」こそ、ドキュメンタリー映画であると言っています。ニュース映像では許されませんが、監督が一つのテーマを表現するために現実を創造的に処理する、つまり演出や「やらせ」を行なうことは、本来のドキュメンタリー映画の定義ではアリなのです。昔ながらの自給自足生活を演出も交えながら描くことで、映画を観る観客達とは大きく異なる文化の中でも、仲間や家族に対する思いは同じであることをフラハティは伝えようとしました。

「モアナと伝説の海」という一つのアニメ映画の背後に、アメリカを含む世界の価値観の移り変わりや、ドキュメンタリー映画の金字塔ともいえる歴史的な作品が見えてきました。こうした広い視野を持ち、単なる観客であることから脱させてくれるのが、大学で映画の歴史と理論を学ぶという事なのです。

映像学科

あらゆる映像領域をゼロから広く学ぶ。専門性を磨き、業界をリードする人材になる。

今、身の回りには映像があふれており、感動を与えられたり、感性を刺激されたりしています。その中で「映像で何かを表現したい」「映像の世界で活躍したい」と、映像に興味を持った人がゼロから学び、真の映像人になれる点が本学科の特徴です。映像を多角的に学び、都内屈指の最新設備・機器で映像を制作し、業界をリードできる人材を育てます。