足跡

2018.9.3

癒やし系VRゲーム「Ideal Vacation」

「芸術学部卒業・大学院修了制作展2018」スペシャルインタビュー
ゲーム学科 遠藤研究室 沼崎優介さん

ゲーム学科遠藤研究室の沼崎優介さんは 3年生の時のグループ制作で制作した舟形VRゲーム「Ideal Vacation」の制作とその作品で研究した内容を論文にまとめ、「ライド型VRコンテンツのための筐体の触覚と座面の不安定性を利用したプレゼンス向上手法」という題名で学会発表も経験しました。

癒やし系VRゲーム

ヴァーチャルリアリティ(VR)のゲームと聞いて皆さんはどのようなゲームを想像しますか?
シューティングゲームやゾンビが襲いかかってくるゲームのようなハラハラドキドキするゲームを想像する人が多いのではないでしょうか。ゲーム学科遠藤研究室の沼崎優介さんはそういったVRゲームではなく、「癒やし」をテーマに、四季折々の風景を楽しみながらゆったりと川下りを体験できるゲームを制作しました。
沼崎さんは3年生の時に、同級生6人グループで1年間かけて制作した作品「Ideal Vacation」で、制作チームのリーダーを務めました。その後、個人的に2回の改良を重ねて『芸術学部卒業・大学院修了制作展 2018』の会場で「ライド型VRコンテンツのための筐体の触覚と座面の不安定性を利用したプレゼンス向上手法」という題名の論文とともに「Ideal Vacation」の改良版を発表しました。

このVRゲームの体験は、筐体である舟に乗り込む前から始まります。まず、靴を脱いで舟の横の踏み台に乗ります。そしてヘッドマウントディスプレイを頭に取り付け舟に乗り込みます。乗り込む際、グラッと動く舟の感覚でプレイヤーは一気に川下りの世界観に引き込まれていきます。最初に見えるのは満開の桜。手渡されたコントローラーはVRの世界では扇子のビジュアルで、花びらをヒラヒラと扇いだり、水面につけたり様々に楽しむことができます。ゆったりと舟が進むと、今度は夏の花火が見えてきます。続いて秋の紅葉、冬の雪景色と四季折々の景色を存分に楽しみながら舟の旅を満喫できるといったものです。

改良版では下から冷気が上がってきて、本当に水面近くにいる感覚になりました。ひんやりと冷たい水上でゆらりゆらりと動いているうちに眠たい気分になってきます。このまま終わらなかったらきっと寝てしまう。そんな「癒やし」のゲーム。

「夏の展示発表で体験した人も冷たさがリアルだったと言っていました。空調まで制御していないんですが、会場のエアコンの風でそう思えたみたいですよ」と笑う沼崎さん。人懐っこい笑顔でお話してくださいました。

ゲームには理論が必要

「ゲームの面白さというのは、直感や芸術的なセンスで作り上げると思っていたのですが、それを組み立てるには理論が必要だということを大学で学びました」と語る沼崎さん。

印象に残った授業は、2年生の時の「ゲームプレイ」という授業。遠藤雅伸教授の、ボードゲームを通じてゲームの面白さを理論的に分析する授業。実際にゲームで遊んでみて、その面白さをレポートにまとめ、次の授業で先生がレポートを講評する、という内容です。

「返却されるレポートの評価がBとかAなんですね。最高得点のSがなかなか取れない。それで、どうしてSじゃないんですか?って授業の後に先生に質問に行くんです。そこで、説明を受けるんですが、『なるほど…論理的に考えるとはそういうことなのか』と納得することばかりでした。教えて頂いたことを参考にして次のレポートを一生懸命書く…それでようやくA。また聞きに行く。そんなことを繰り返していました。」

高校時代は、授業の後に先生に質問に行ったり、成績にこだわるタイプではなかったという沼崎さんですが、興味があったゲームや「人を楽しませること」を理論的に学べる遠藤教授の授業では、もっと知りたいという気持ちがどんどん湧き上がってきたそうです。「それまでは、むしろ勉強は嫌いだったんですよ。でも、例えばこの研究の為には数学のこの部分が必要らしい。だから、やってみよう…と、興味があることをきっかけにそれまであまり関心がなかった勉強にも積極的に取り組めるようになりました。」

3年生になると遠藤教授のゼミに入り、夏に初めての学会発表を経験。「もっと理論の世界に引き込まれました。そして、まだ数少ないVRゲームの理論をより深く追求するために、グループで制作したVRゲーム「Ideal Vacation」を研究し改良することを決意しました」と沼崎さんは言います。

好奇心とチャレンジ精神

プレゼンスとは、あたかもその世界に入り込んでいるような感覚を指します。沼崎さんは、「そこに居る感覚を得る体験」を積みかさねることで、VRゲームのプレゼンスが向上すると考え、研究し、その結果を制作に活かしました。

ゲーム筐体である舟の制作も経験しました。

最初は、主にソフト面での改良を中心に、秋のシーンで扇子の先にトンボが止まるなどの仕様を追加しました。次の改良では「揺れ」の体験を追加。3年生のグループ制作のときには舟型の枠を座席の周りに設置するだけだったものを、キャンプ用エアマットの上に舟ユニットを乗せることで「揺れ」の感覚を実現。「揺れ」をより強く感じられる場面はどんな場面か検討し、ゲームの始まりを舟に乗り込む場面に変更しました。

改良を積み重ねることで、そこに居る感覚が強くなっていき、いつしか、作品とは関係のない冷気が水面の冷たさに感じられるまでになりました。

研究と制作を繰り返し、このVRゲームを研究のテーマにして、3回の学会発表も経験しました。1回目は遠藤教授に勧められ参加しましたが、2回目の発表前には他大学にいるVR研究者を訪問し、指導を仰ぎました。3回目の学会は国際学会でしたので発表を英語で行うなど、新しいチャレンジも積極的に積み重ね、ベストデモ賞、ベストペーパーアワードなどを受賞しました。

沼崎さんがチャレンジ精神旺盛なのはもともとの性格だったのでしょうか?沼崎さんは実際には、大学に入学したとき、多くの先生から「積極的に色んなを体験をしてみよう」とアドバイスされたことがきっかけだったと言います。そのときから、マンガ、映画などを観る、ライブ、遊園地などに沢山行ってみるなど、意識して様々な体験をしました。フットワークを軽くし、例えば「雪といえば新潟だ!新潟に行ってみよう!」といったように様々な場所へ実際に出かけたことは、この作品にも活かされていると言います。

「この卒業展が終わったら、スキーに行くんですよ。それから帰ってきたら次は釣りに行きます。食べたことのないものも積極的に食べる、ということもしています。カラスを食べたこともあるんですよ。全然おいしくないんですけど…」等失敗談や今後の予定を楽しそうに話してくれる沼崎さん。実は、もともとインドア派だそうです。どちらかと言うと家でゲームをしていたいと思うタイプ。けれど、意識して体験しているうちに、好奇心旺盛になり行動もアクティブになっていったとか。いつしか、勉強面でチャレンジすることにも積極的になっていきました。

沼崎さんは、他大学の大学院に進学が決まっています。大学院では、メディアサイエンスの研究室でVRやゲームについてより深く研究する予定です。「東京工芸大学に進学する前には想像もしなかった進路です。」大学院を卒業後はゲーム業界に進みたいと思っており、ゲームにとどまらず、広くVRを使ったエンターテイメントの企画も面白そうだと考えているとのことです。

沼崎さんの研究が私たちを楽しませてくれる、そんな未来を期待しています。

ゲーム学科

総合芸術としてのゲームを学び、遊びの未来をクリエイトする。

デジタルゲームは様々な要素を持っています。工学、数学、美学、文学、さらに心理学や文化人類学も重要なファクター。その全てを駆使して人を夢中にさせるものを創造するためには、ゲームを学問として学ばなければなりません。「未来の遊びを創造する」をテーマに、ゲームクリエイターの教員達が世界で通用する人材を送り出しています。

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