足跡

2019.1.28

普通の人の感覚を大切に『ストーリーチェイサー』

「芸術学部卒業・大学院修了制作展2018」スペシャルインタビュー
インタラクティブメディア学科 3DCG&エンターテインメント研究室 長嶋恵さん

踊るように動く3DCGのアニメーション

「私、普通の人なんです」

インタビューの間、何度もそう言っていたのはインタラクティブメディア学科3DCG&エンターテインメント研究室の長嶋恵さん。インタビューのとき、スーツ姿で現れた長嶋さんの第一印象は、確かに、「大学の職員です」と自己紹介されたら納得してしまうような、想像していた美術系の大学生とは違う雰囲気でした。「この人があの作品の監督なんだ」と少しギャップを感じました。

長嶋さんが制作したのは、フル3DCGのアニメーション『ストーリーチェイサー』。海外のアニメーションのようにコミカルな展開のこの作品は、技術力だけでなく、演出面も高い評価を受けました。

物語サークルに所属する女の子アトラとサイビは、物語コンテストへの応募を思い立つ。それぞれに自分のアイディアをまとめるも、そのアイディアが入ったUSBとCD-ROMが、ひょんなことから坂道を走る無人自転車のかごの中に。自転車を追いかけるも様々なトラブルに巻き込まれUSBとCD-ROMは取り戻せません。散々な1日の最後に、この経験が最高の物語だと気がつく2人。

普通の女の子の物語。しかし、主人公たちのコミカルで生き生きとした動きは観る人を飽きさせません。「そこは、かなりこだわりました。誇張的な動きをしないとアニメとして成立しないと思っているので」と長嶋さん。ネット上にあるCGのチュートリアルなどは参考にせずに、好きなキャラクター『ミニオンズ』のコミカルな動きや、日本のアニメーションでは『プリキュア』シリーズのエンディングに流れるダンスシーンの3DCGアニメーションを長嶋さんは参考にしました。CGアニメーションは動きの加減を間違えると観る人が気持ち悪く感じてしまう難しさがあります。ダンスの動きは滑らかでありながらメリハリがあり、参考になったそうです。「ミュージカルやダンスの動きは、3DCGアニメーションに合っているんです。でも、私はきちんと物語を描きたかったので、動きの参考にはしましたが、この作品をミュージカルにはしませんでした」と、長嶋さんは言います。

「普通の女の子の話」だけど面白い。そんな物語を作った「普通の人」の長嶋さん。お話を聞くと、「普通」ではない冷静な視点がありました。

普通の人の感覚を大切に

「大学に入る前は、アートとかクリエイターとかそういう事とは全く無縁の普通の高校生だったんです。自分のパソコンも持っていなかったですし、電源がどこかもわからなかったくらい」と長嶋さん。インタラクティブメディア学科では、「CG」「Web」「インタラクティブアート」「サウンド」の4つの分野があります。しかし、長島さんは、どの分野について学びたいというイメージはなく、単純に「パソコンに強くなれるかも。そうしたら就職に有利かな」という理由だけで入学しました。

1年生、2年生でそれぞれの分野について広く学ぶなかで、「3DCGアニメーション」の存在を知りました。もともとピクサーやディズニーで制作された3DCGアニメーションが好きだった長嶋さんは「あの映像ってこういう風に作られているんだ」と興味が沸いてきました。そして、「卒業制作はフル3DCGアニメーションにする」と決め、3年生で3DCG&エンターテインメント研究室に入ることにしました。

「私のうちは、家族全員公務員なんですよ。高校生までの友達もクリエイター志望の人はいなくて、一視聴者として映画やテレビを観ている人ばかりでした。私自身、ついこの間まで一視聴者でしかなかった。でも、それが逆に凄く良かったと感じています」と長嶋さん。

それまで海外の商業作品ばかり観てきた長嶋さんは、学生の作品を観て驚きました。「全然違う。面白くない……」

学生の作品は「自分の好きなものはこれ」「この技術、頑張った」と独りよがりになってしまう場合があります。そうならないように長嶋さんが心がけたのは、家族にみせて反応を確認すること。どんなに苦労したり凄い技術を使ったりしても、家族に「良くわからなかった」「つまらなかった」と言われたら「これは駄目なんだ。ボツにしよう」と潔くカットしました。制作者同士だと逆に技術的に「ここが凄い」と通じてしまったり、マニア受けを狙ってしまったりする所があるので、技術的なことがわからない「普通の人」に観てもらうのが1番だと長嶋さんは感じています。そして、一視聴者の期間が長かった長嶋さんは、「私には普通の人の視点があるから、かえって有利なんだ」と思っています。

練習と本番を同時に

キャラクター案

それまで3DCGアニメーションの制作経験のなかった長嶋さんは他の人より早く卒業制作を始めました。3年生の10月には絵コンテとビデオコンテの制作をほぼ同時に開始。ビデオコンテとは、静止画である絵コンテを繋げて映像として見せ一連の動きを確認するものです。全体のテンポやキャラクターの動きを重要視していた長嶋さんは絵コンテ以上に大切に考え、制作のはじめから取りかかっていました。4年生に進級したときには3DCG空間内で、キャラクターを造形するモデリングという作業も完了しているスピード感。アニメーション制作そのものを始めたのは4年生の6月から。1月の提出期限ギリギリまで半年以上かけて制作していました。

「あの映画で出ているものが全部じゃないんですよ。作っては捨て作っては捨て、ボツにしたカットばかりでした。角度を変えたり、展開を変えたり、時間がたっぷりあったおかげで練習が沢山できたなと思っています。練習と本番を同時に進めていたようなものです。夜遅くまで丸1日かけて作ったカットでも翌朝起きて面白くないと思ったらバサッとカットしました。そういうときにもったいないなどとは思わないんですよね」と長嶋さん。

初めての制作にも関わらず、長嶋さんには、技術を追い求めるクリエイター的な視点だけでなく全体を見通して冷静に判断するディレクター(監督)的な視点があります。例えば、作画においても、その視点が貫かれています。「背景などは手を抜いているところもあります。全部に力を入れていたらとてもじゃないけど間に合わないスケジュールだったので。だけど、瞳の中や髪の毛の動きはかなり力を入れて作り込みました。視聴者がどこを見るかを考えて、一番大切なのは瞳だと判断しました」と長嶋さんは言います。

もっと面白いものを……何度も作り直した

研究室の担当教員である伊勢田誠治助教に言われて1番印象に残っているのは、制作を始めた10月に言われた「モチベーションを保てるかだね」という言葉。技術的に間に合うかばかり考えていた長嶋さんは、精神的なものが障害になってしまう可能性もあるのだとハッとしました。焦ってばかりいた気持ちを落ち着かせ計画通りに着実に制作しようと思いました。

制作中、教授に見せることを心がけていた長嶋さん。制作初期は週に1回。全く進んでいなくても「進まなかった」と話しに行くほど徹底していました。先生に「ここはこうすると良いよ」と教えて頂いたことが「じゃあ、こっちもこうした方が良いな」と自分で応用することができ、技術的に成長しただけでなく、煮詰まったときは、ただ話すだけでも、前に進む力になりました。

教授だけでなく学科の仲間の存在も長嶋さんの助けになりました。インタラクティブメディア学科は色々な活動をしている学生が多く学科全体の雰囲気に活気がありました。そのため「私も頑張ろう」と長嶋さんは思うことができました。3年生までパソコンを持っていなかった長嶋さんでしたが、パソコンに詳しい同級生に教えてもらって購入するなど、周りの仲間達の知識に助けられる場面も多かったそうです。卒業制作は、それぞれの自宅で作業していましたが、その間もビデオ通話で励まし合ったり、画面を共有してわからないことを教えてもらったりしていました。

『ストーリーチェイサー』は主人公の女の子たちの声も魅力的な作品ですが、それには、エピソードがあります。

「実は、あの作品は字幕で、音声は『ミニオンズ』みたいに何語かわからない言葉を私が話す予定だったんですよ。まだ音声を入れていない字幕段階の作品を先生がみて、『声優さんに声を入れてもらわない?』と提案してくださったんです。先生の知り合いのプロデューサーさんから声優養成所の学生を紹介して頂いて、ぴったりの声を入れてもらいました。口の動きを日本語に合わせていなかったので心配だったんですが、よく繋がったなと思いました」

普通ではあまりない特別な提案を先生がしてくださったのは、作品の完成度だけでなく、毎週のように先生のもとに通って進捗を見てもらっていたことも大きいのではないかと長嶋さんは考えています。「本当に少しずつしか進まなかった姿を、先生は見守って評価してくれていたんだな……と嬉しく思いました」

卒業後は映像制作会社で3DCGクリエイターとして第一歩を踏み出します。将来は監督になりたいと長嶋さんは思っています。

インタラクティブメディア学科

まだまだ進化する双方向メディアを学び、次代を拓く人材を目指して。

本学科の卒業生がエンターテインメントやアート、ITなど、あらゆる産業界で活躍できるのは“双方向性を備えた”インタラクティブメディアを習得しているから。学ぶ領域は非常に広く、時代のニーズを捉えた幅広いカリキュラムを用意しています。年次が上がるごとに、自分の目標とする領域を専門研究し、次代のメディアを担う人材を育成しています。