足跡

2019.1.30

世界観を作る『NEW HORIZON』

「芸術学部卒業・大学院修了制作展2018」スペシャルインタビュー
デザイン学科 イラストレーション研究室 小俣香瑛さん

2018年の「芸術学部卒業・大学院修了制作展」で印象に残った作品の制作者へのインタビュー。デザイン学科イラストレーション研究室の小俣香瑛さんはコンセプトアートというジャンルの作品を制作し、デザイン学科全体でもっとも優秀な作品として選ばれました。

世界観を描く

「これは写真ですか?映画ですか?」

卒業展の会場で、そのように質問をされている作品がありました。それは、デザイン学科イラストレーション研究室の小俣香瑛さんの卒業制作作品の『NEW HORIZON』です。ハリウッド映画のワンシーンのようなリアルさです。

「絵なんですよ」と小俣さんが答えると驚きの声が上がります。ハリウッド映画のワンシーンのようと思ったのはある意味正解。小俣さんが制作したのはコンセプトアートというジャンルの作品だからです。コンセプトアートは、SFやファンタジー映画、ゲーム等を企画する際にその世界観を伝える手段として用いるイラストレーションです。架空の風景や、そこで使用される道具などを絵で表現します。制作の現場でも、携わるスタッフ達が共有するイメージになるので、とても重要な存在です。そのためリアルに説得力をもたせて描くことを求められる事が多く、Photoshopなどのソフトウェアや、写真を元に加工した素材を組み合わせるフォトバッシュという技法などを駆使してリアルさを追求します。

『NEW HORIZON』は小俣さんが考えた架空のSF映画のコンセプトアート。地球に住めなくなった人類の土星への移住計画や人工知能(AI)との戦争といった壮大な三部作の物語の舞台やその中で使われる道具などが描かれています。

もともとファンタジーを得意としていたのに、卒業制作であえて小俣さんがSFを題材に選んだ理由の一つは「やっぱり女の子はファンタジーだよね」と言われたことです。「そんなことはない。SFも描けることを証明したい」といった思いからこの作品にチャレンジしたと言います。まだ日本で積極的に活用されるようになって日の浅いコンセプトアートの世界に進むなど、ゲームの世界の戦士のように勇ましい第一印象の小俣さん。しかし、お話をしてみるとチャーミングな笑顔で応援したくなる雰囲気の女性でした。

きっかけは大学一年生のときの就職の授業

大学入学当初は、「小説の表紙のキャラクターイラストが描けるといいな」と思っていた小俣さんでしたが、ある授業で自分自身について考えさせられたと言います。それは1年生のときに受けた「キャリア概論」です。就職についての授業でした。1年生のときなので具体的なテクニックよりも考え方が内容の中心でした。しかし、「2年生なったら気を引き締めて頑張らないと行きたい会社に就職するのが難しくなる」等、刺激的な言葉が多く、それまで漠然と考えていた未来を具体的に考えなければいけないんだと小俣さんは焦りました。

そして小俣さんは、「キャラクターを描きたい人は日本中に溢れている。その中で勝負することは難しいのではないか、だとしたら自分にできることは何だろう」と考え、需要はありながら挑戦する人の少ない背景を描こうと思い始めました。インターネットで検索しているうちにコンセプトアートの存在を知り「やりたいのはこれだ」と思いました。

それからは、コンセプトアーティストの方の展示などに出かけていき、質問をしたり、自分の作品に対する意見をもらったりしました。

ディスカッションの授業で鍛えられました

「コンセプトアートというゲームや映画の世界観を描く仕事がしたい」という小俣さんは、「ゲームをやりたいならゲーム学科、映像をやりたいなら映像学科もあるよ」と転科を勧められたこともあったそうです。しかし、コンセプトアーティストの道に進むならイラストレーションを描く技術を極めたい。中途半端にはしたくはないと、転科はしませんでした。それは、指導教授の存在が大きかったと言います。「年に何人かは両手からこぼれ落ちてしまうような学生がいる。君はその一人だよ」と言いながらも小俣さんのチャレンジを応援してくれました。

研究室でもっとも勉強になったのはディスカッション。学生それぞれの作品についてお互いに講評しあう時間です。他の人の作品について意見を言うことは自分自身に跳ね返ってくるので怖い面もありますが、他の作品についてじっくり考え、発言することで、小俣さんは自分自身の制作の気づきにも繋がりました。

コンセプトアーティストは、クライアントや作品の監督から言葉を引き出すなどコミニケーション能力が求められる職業です。研究室でのディスカッションの経験のおかげで、他の人の意見を聞き、小俣さんは自分の意見も言うことへの苦手意識も解消されました。

小俣さんが卒業作品の制作を始めたのは、4年生の夏頃でしたが、紆余曲折があり、12月にようやく今回のコンセプトにたどり着きました。テレビのNASA特集や宇宙についての番組を観ているうちにアイディアが沸いてきました。作品にリアリティをもたせる為にNASAのホームページをみたり、図書館で本を調べたりしました。「2045年には人工知能が人類の能力を越える」と言われる2045年問題、100年後には人類は滅亡するという説などを取り入れ壮大な物語を小俣さんは考えていきました。

道具は、3DCGのソフトウェアで設計し、二次元にしたものをPhotoshopで色づけしました。世界観が伝わりやすくする為、小俣さんは絵の上下に黒い帯を描き、古いドットぽいフォントで文字を書くことによって探査記録の写真のような雰囲気を出しました。

締め切りギリギリの制作だったので、小俣さんは自信を持てずにいた部分もありましたが、卒業展の来場者達に「格好いい」「この世界に行ってみたい」と言ってもらうことができました。

「卒業後は大阪のゲーム会社でコンセプトアーティストとして第一歩を歩み出します。憧れのアーティストの方が働いていた一番行きたかった会社。同期の仲間もキャラクターならキャラクター、乗り物なら乗り物とそれぞれのジャンルのイラストレーションを追求し優秀で尖った人たちが集まっています。才能ある人たちの中で頑張れるか心配もしていますが、新しい生活にワクワクしています。将来は、日本にとどまらず海外でも活躍できるコンセプトアーティストになるという大きな夢があります」と小俣さんは言います。

デザイン学科

幅広い学びから自分の専門を極め、一生走り続けられるデザイナーになる。

建物などの生活空間や工業製品、ポスター、雑誌、Webなど、私たちの暮らしは様々なデザインで彩られています。幅広い領域の中から自分の可能性に気づくために、本学科では1・2年次に一通りのジャンルを学び、その上で自分の専門に進めるカリキュラムを用意。現役クリエイターとして実績のある教員が、生涯にわたり活躍できる実践力を鍛えます。