足跡

2017.6.12

指で描く懐かしい未来「消えゆく未来の視覚化」

2017年卒業制作展スペシャルインタビュー
デザイン学科キャラクター&コミュニケーションアート研究室:匝瑳龍暉さん

2017年の「芸術学部卒業・大学院修了制作展」で印象に残った作品の制作者へのインタビュー。
「こうであったかもしれないもうひとつの東京」を描いた匝瑳龍暉さんの作品は、卒業制作展で多くの人々の共感を得ました。大学生時代に一貫して追求し続けてきたレトロフューチャーというテーマ、そしてデザイン学科に在籍していたからこそ得ることのできた経験などについて、お話を伺いました。

古くて新しいパラレルワールド

池袋を題材にした作品。昭和40年代には完成していなかったサンシャインビルの姿をあえて描いています。

匝瑳さんの描く渋谷や銀座の風景は、一見近未来的でありながらどこか懐かしい空気を感じさせ、まるで過去と未来と現在の時間軸を飛び越えたような不思議な感覚を抱かせます。基本的な街並みは現代と同じなのに、昭和時代を思わせる企業の看板の上を、空飛ぶ自動車が横切ったりしているのです。それはまるで、私たちとは別の歴史をたどったパラレルワールドの東京を見るようです。

1930年代~70年代前半にかけての人々が、来たるべき明るい未来を想像して描いた世界。そうした世界観を現代的に再解釈するレトロフューチャーというジャンルに魅了されてきた匝瑳さんは、まだあまり描かれていない日本独自のレトロフューチャーを卒業展のテーマに選びました。

「予想外に反応があって、特に年配の方からの反応が良かったです。当時の人たちはそれが実現する未来だと思っていた。今は日本が少し暗い状況なので、こんな風に未来を明るく考えていた時代があった、それを忘れないでね、というような狙いもありました」 年配の方だけでなく、当時を知らない若い人たちが逆に新しさを感じたという意見もあったといいます。

タブレットに指で描く

作品の制作にはタブレットを使いますが、タッチペンなどは用いず全て指で直接線を描いていきます。タブレットで絵を描き始めた頃、タッチペンに使うお金を節約するために指で描いていたところ、いつのまにか指でないと描けなくなっていたそうです。

「結局、画面に直に触れているという感覚が、デジタルでありながらアナログというか。レトロフューチャーって新しくて古いものですけど、自分がやっている作業も新しいタブレットの上に指という原始的なもので絵を描くわけで、偶然か必然か分かりませんがそこは良くマッチしていると思いますね」

「知らなければ何も描けない」

渋谷を題材にした作品。

作品に反映されているのは、主に1960年代の東京。当時盛り上がってきた宇宙開発や原子力などの新技術を背景に、未来を想像したイメージが数多く描かれた時代です。その頃の街並みを知るために国会図書館などにも足を運び、様々な史料にあたりました。しかし、昭和中頃の渋谷や池袋などの写真は意外に少なく、結局、当時撮影されたドラマの背景から初めて分かった風景などもあったそうです。「それから実際にその街に足を運ぶんですよね。街ごとに空気とか雰囲気とかが違うので、その感じが絵に出せたらいいなと」

こうした綿密な資料収集の結果、実際に当時の東京を知る人たちから「そう言えばこのビルにこんな店あったよね」など懐かしがる声も頂いたそうです。

作品のテーマについて徹底的に調査し、理論的に組み立てていく匝瑳さんの制作姿勢には、3年次から籍を置いた笠尾敦司教授のキャラクター&コミュニケーションアート研究室での経験も大きく影響しているといいます。

「笠尾教授は、何かを描くときはとにかく図書館でも何でも行って徹底的に調べ、きちんと理解したうえで描きなさいという人でした。知らなければ何も描けない、知ることが大事なんだということを学びましたね」

なぜそうなるのか、狙いは何なのかという作品の背景をしっかりと組み立て、背後にある世界観を確立させたうえで制作にあたるという姿勢が、卒業展作品にも活かされています。

無駄を無駄と思わない世界

現在は、尊敬するイラストレーターと同じマネージャーのもとで、イラストや漫画を描き続けている匝瑳さん。ずっと追い続けてきたレトロフューチャー的世界観を伝えられるイラストレーターとして独立するべく修行の毎日です。

「昔の建物や家具などを見ると、とにかく無駄な曲線や装飾などが多く使われてますが、実は余裕がなければ無駄も作れないわけで、昔は無駄こそが豊かさの象徴だったと思うんです。今は無駄をどんどん削っていく時代ですが、結局自ら貧しい方向へ進んでいっている気がします。もう少し余裕を持ってもいいんじゃないかな、と。今からでもまだ遅くはないと思っています」

(撮影協力:中野ブロードウェイ)

消えゆく未来の視覚化 匝瑳龍暉

学科名
デザイン学科
学年
4年生
所属研究室
キャラクター&コミュニケーションアート研究室
制作年度
2017年
作品ジャンル(ツール)
ipad air2 Procreate

昭和40年代に創造された未来の東京を描きました。同時に現在の東京と比較し、かつての理想像と現実の差を対比できるようにしました。バラ色の将来が信じられた時代と、消え行く昭和の残渣に思いを馳せて。