足跡

2019.1.22

人滅びても、獣生く。『獣麗生画』

「芸術学部卒業・大学院修了制作展2018」スペシャルインタビュー
マンガ学科 カートゥーン チョン・インキョン研究室 YUIさん

「芸術学部卒業・大学院修了制作展2018」スペシャルインタビュー。マンガ学科 カートゥーン チョン・インキョン研究室のYUIさんはデザインガッシュによる大きなイラストレーション作品『獣麗生画』を制作しました。作品に込めた思いについて伺いました。

強さの中に隠された優しさ

カラフルでスタイリッシュで力強い一枚の絵。しかし、そこに込められたのは繊細な動物への思いです。

マンガ学科 カートゥーン チョン・インキョン研究室のYUIさんの卒業制作作品『獣麗生画』。この作品は、すでに絶滅しているものも含め、様々な動物を掛け合わせて新たな動物を創造し、ダイナミックな構図と独特の色使いにより、沸き立つような純粋なエネルギーを表現しています。また、右下には髑髏(しゃれこうべ)を描き、人間の脆さを表現することにより、人間が滅びても生き続ける野生の獣の強さと優しさを、おどろおどろしさとユーモアを交えて描き出しています。

作品の展示会場、YUIさんが待ち合わせに現れると、その場が一気にギャラリーに変わったように思えました。意思の強い若きアーティストの雰囲気を漂わせているYUIさん。けれど、言葉を選んで話す繊細な一面もあり、動物に対する想いを語ると気持ちがあふれて声が震えていました。強さと優しさが両立している姿は、作品から感じられる多面性に一層の深みを与えてくれます。

挫折と転機

YUIさんが東京工芸大学を志望したきっかけは、中学3年生のときに『バクマン。』を読んだことだと言います。マンガ家として高い目標に進んでいく主人公達の頑張る姿に惹かれ、「私もマンガ家になりたい。文化の中心である東京で、マンガを学べる大学はここしかない」と考え、高校入学前には「東京工芸大学に進学する」とYUIさんは決めていました。高校では美術の授業もなく、どうしたら、マンガ学科に入れるのだろうと考え、画塾に通うことに。芸術系の大学でデザインや油絵などを専攻を志望している生徒が多い中で、マンガ学科を目指しているのはYUIさんだけでしたが、高校3年間、絵の基礎を築くことに専念したと言います。

しかし、中学3年生からの夢であった東京工芸大学のマンガ学科に見事入学したものの、早々に挫折を味わってしまいます。『少年ジャンプ』に載るような王道のマンガに憧れていましたが、自分らしい作品を作り上げることが出来なかったのです。そして、いつしか自分の絵には個性がない、世界観がないとコンプレックスを感じるようになってしまいました。友達にネームを見せることも躊躇してしまい、マンガ家には向いていないのではないかと思いはじめます。悩み続けた2年生のある日、デッサンの授業で水彩絵の具を塗り重ね、女性のモデルの絵を一生懸命描いているとき、高校時代に画塾で一枚の絵を納得いくまで仕上げた感覚がYUIさんに蘇りました。


「自分の中の熱量もストーリーマンガを描いているときよりも強く感じられ、ストーリーマンガを描くよりも一枚の絵を描く方が好きだと気がつきました。その後、「見たことのない動物園を描く」という課題では、スケッチしたキリンやチーターを独特の色使いで描くことで、今の画風に通じる絵を描く感覚も掴むことができました。それからは、自分の絵に自信を持てるようになりました。そして、展示会で『奇想の絵師』として有名な歌川国芳の絵に出会い、その世界観に強く影響を受けました。」

今回も歌川国芳の迫力と鬼才さを意識し、百鬼夜行のような雰囲気を目指したそうです。

「人が滅びた後の世で、彼らは生きる。逞しく、美しく。」

研究室はカートゥーン チョン・インキョン研究室。
「第一希望から第三希望まで全てにチョン教授の名前を書くほど絶対に行きたいと思っていました。なぜなら、チョン教授が学生の独自のスタイルを大切にしてくれる点や、教授自身がアーティストである点にも惹かれたからです。

チョン教授は、決して手取り足取り教えることはせずに、ヒントを出してくれるだけでした。あとは自分でじっくりと考えて答えを見つけ出すことが多く、不安になることもありました。しかし結果的には、自分の作品を客観視する力を身につけることができました。チョン教授の元だからこそ独自の世界観を確立することができたと思っています。今回の作品のきっかけは4年生の5月頃、実家で殺処分場出身の保護犬を家族として迎え入れたことです。その犬と数日間過ごしているうちに込み上げてくる思いが作品のアイディアに繋がりました。「人間がヒエラルキーのトップにいて動物はその下」という発想が昔から馴染めず、「犬がかわいそう」と言うことにも抵抗がありました。「動物だって負けちゃあいない!」という気持ちで、己の本能のまま、力強く、ときに優しく、そして自由に、渇望しながら生き抜く、動物たちの内に宿る“強さ”と“美”を表現しました。」

とYUIさんは言います。

そして作り上げられた作品は、「作品の中にしっかり自分の考えが込められている」と評価され、高い評判を呼びました。

「卒業後はデザインに携わりつつ、アーティストとして独立したいと思っています。そしていつか、ボランティアで、動物保護団体の活動に貢献をしたいという夢も持っています。」とYUIさん。

マンガ学科

世界で注目される日本のマンガを推進する力を育成。

"マンガ"は、日本のコンテンツ産業の中心的存在で、広がりと歴史を持つキャラクター表現です。また、中学・高等学校の学習指導要領(美術)でも扱う対象とされているように、現代の視覚表現としても注目されています。本学科は、マンガをはじめキャラクター表現について、一般の美術系大学にはない専門性と実績を持ち、幅広く人材を育成しています。